フォワーダーという仕事を始めて9年になる。「どうしてもフォワーダーになりたい!」という強い思いでなったわけではなく、事業の失敗やタイへの移住など、仕事以外のところが主な理由であって たまたまフォワーダーという仕事をしている。
正直に告白すると、僕はこの仕事があまり好きになれなかった。でもこの仕事に救われた。
今回のテーマはフォワーダーという仕事について9年の経験から僕が感じたフォワーダーの良い所・悪い所について語り、仕事に対する向き合い方についてもお話をしていきたい。
フォワーダーに興味がある、外国人を相手に仕事をしたい、海外で仕事をしてみたい、海外で起業をしてみたいという人には参考になると思う。
フォワーダーは貿易のプロ
英語を使った仕事がしたいと思う学生さんや若者は多くいると思う。僕自身も仕事内容はよくわかってないけれども英語をペラペラと話して仕事をする姿がカッコいいと思ってたし、そういう仕事は貿易に携わることなんだろうなと思っていた。
なので最初に入社した会社は化学系の商社だった。でも海外との商取引や交渉は経験したけれども貿易については、貿易業務の人たちに任せていた。
その貿易業務の人たちはフォワーダーから色々とアドバイスをもらっていたな。
そういう意味ではフォワーダーは貿易のプロだし、商社マンよりも物を運ぶことに関しては圧倒的に詳しいのである。もう少しフォワーダーの仕事や業界について詳しく解説していこう。
フォワーダーの仕事とは?
フォワーダーとは船会社や航空会社のように船・飛行機のようなアセット(設備)をもたず、船・飛行機のスペースを借りてお客様の貨物を輸送するという代理店業である。
フォワーダーの仕事に関しての詳しい内容について、僕はフォワーダー大学というゆるいブログを書いている。国際物流の事務や実務で使う用語の解説や通関という広い内容か、冷凍マンゴーや冷凍鶏肉の輸入方法というニッチな記事まで書いている。
フォワーダーの仕事については何記事か書いているので興味のある人はそちらを参考にしてほしい。
プロの運び人(フォワーダー)による貿易実務・貿易事務・物流営業の仕事を分かり易く解説する事を目的としたブログです。メーカー・商社・フォワーダーの輸出入の仕事に役立つ情報を更新していきます。
またこの動画でも詳しく解説をしているのでみて欲しい。
フォワーダーの仕事に対する疑問
では、早速だが なぜ僕がこの仕事を好きになれなかったのか、ぶっちゃけてお話したい。
タイで生活を始めるというきっかけがフォワーダーという仕事だったんだけど、タイで現地採用というポジションで必死に営業活動をしていたにも関わらず、駐在員たちからこんな言葉を浴びせられた。
僕らフォワーダーは本当に底辺の底辺ですからね。
物流業者なんてどこ使っても同じでしょ?
物流はタイ人に任せているからね。俺はノータッチだから。
気にしなきゃいいんだけれども、こういう経験からフォワーダーという仕事がどのようなポジションかよく分かる。タイの日系の製造業の人はたまに上から目線でくる。
最後のセリフは今でも頻繁に聞くキーワードで、より良い物流など全く気にしていない人たちは結構いると実感している。タイには素晴らしい駐在員もいる一方で こういう事もあったので、以下のような叫びの記事を書いてしまったくらいだ。
タイで現地採用を経験し、ローカル企業の社長にもなったが、それでも駐在員との見えない壁にヤキモキする気持ちが高まりすぎることがある。 飯野さん、何があったんですか? 聞いて欲しい。書くかどうか迷ったが、これは僕の危機感と嫉妬にまみれたお話であり、そして無力にも自分の正義を振りかざす酔狂な物語である。そして18,000文字くらいある。 今晩 酒を飲みながら酒のアテくらいに読んで欲しい。
物流業者は底辺なのか?
確かにフォワーダーの新卒の面接会場に東大や京大生なんているのだろうか?と思うくらい、学生時代の優秀な人材は、役人・金融・コンサル・自動車・大手商社へと流れていっていると思う。
タイの日系企業でも物流というセクションに日本人が関わるのは本当に大手くらいだ。大体はタイ人が対応するくらいなので中核なポジションではないし、そこを改革をしたがらない日本人も多い。
またタイには日系フォワーダーはとにかく多く仕事の取り合いもあり、基本的にどの業者もやってる事は同じなので簡単に切り替えられてしまう。
底辺は言い過ぎじゃないっすか??
俺は言ってない。
こんな感じで、フォワーダーという仕事は誰がやっても大体同じという考えを持っていた。更に言えば見下されることも何度かあった。
フォワーダーが見下されるというのは僕以外にも同業者の何人かから聞いたことがあるので、僕の人間性だけの問題ではないと思う。
お客のビジネスへの依存
これは自動車が売れないとパーツメーカーも売れないように どの業界もあるんだろうけれども、フォワーダーもお客さんの業績がよくないと貨物の輸送量は減る。
お客の商売に依存する形になっている。
そしてお客は安く運べれば業者はどこでもいいと思っているところもある。日系企業の場合はお客様が神様で物を作る方が偉いという空気感はやっぱりある。
これは大手企業の物流の入札だと顕著に現れる。ほとんど価格しか見られない。サービスやその他の不可価値は圧倒的に最後の方。安く出したもん勝ち。
つまらん。
やっぱり物流の本質はコストだ
君が荷物を送る時のことを思い出して欲しいのだが、輸送費を気にしたことはないだろうか?郵便局やコンビニでヤマトや佐川のサービスを使って何かを送るのに当然だが輸送費用がかかる。
物流は安全に確実に送れるのであれば、あとはコストでしかない。
ヤマトだろうが、佐川だろうが、福通だろうが、日通だろうが、郵便局だろうが関係ない。確実に、そこそこ早く届くのなら安い方がいいに決まっている。
本質がコストである物流では創意工夫や美意識は関係ない。「かっこよく運んだので高くなります!」なんてあり得ない話だ。
僕はかっこいい物流を表現する為にインスタグラムをやっているがww
広告代理店ならアイディアやクリエイティブを発揮してクライアントの売り上げやブランディングに貢献できるから、こういう業界はコストだけでは判断されにくい。
しかし物流業は違う。徹底的に効率的に物を動かし、極力無駄なものを省いてコストを削減する。その削減したコストがお客様の利益になる。基本的にはこういう構造だ。
大手は組織力で勝負してくる
大手の物流企業の場合は大手の製造業者の為に近くに物流センターを作ったり倉庫を作ったりもする。これはいち営業マンの個人プレーでは出来ることではなく組織として全体でお客様の物流をサポートする形となる。
そういう業界でもあるので大手の仕事獲得に関しては営業マンのサービス品質より、設備投資の可否や入札で値段しか見られない事が多い。
こんなの中小企業が勝てる訳がない。。
日系物流業者はこれから大丈夫か?
話は少しズレるが、基本的に物流業者で人件費が高いというのは本質からズレている。高い人件費でそのコスト以上の圧倒的な利益を稼がないと企業として長く存続するのが難しくなる。
日系の大手物流企業がこれから先 海外で生き残れるかどうかは組織としての方向性を見直す必要があるのではないかと思っている。ローカライズ出来ない企業は生き残る事は出来ない。
最後は僕の勝手な業界予測だが、このように底辺だと言われたり、顧客依存型のビジネスだったり、コストでしかなかったり、クリエイティブは不要だったり、大手の仕事は取れなかったりでフォワーダーとしての仕事の価値を感じられなかった。
コロナによって価値観が一変させられた
ところがどっこい、100年に一度と言われるパンデミック、コロナ(Covid-19)が僕のフォワーダーに対してのネガティブイメージを激変してくれた。
ご存知の通りでコロナの影響で大打撃を受けている業種や会社は少なくない。観光業や飲食店などは本当に大変な時期で、その業界で働く友人たちも なり振り構わず生き残ろうとしている。
そんな状況でうちの商売はというと、それほど大きな影響を食らってはいない。
「みんなが大変な時に、けしからん!」という 日本人おなじみの同調圧力はやめてほしい。コロナで儲けた業種だってあるんだ。うちは儲けてはいないが。
タイの自動車産業への打撃
タイの日系企業でメイン産業といえば自動車だ。自動車業界では製造ラインを止めると数千万円の損失が出るので、絶対に止めてはいけないと言っていたトヨタやホンダが工場をストップするという事態が起こっている。
自動車工場が止まると同時にそれに付随してパーツメーカーも生産がストップする。4月、5月は自宅待機というホリデーをエンジョイ?していた駐在員たちは少なくない。
現地採用の人たちは まとめて首を切られたという悲惨な話もある。
詳しい事情は知らないが、切るところを間違っていないか?
自動車の物流というサンクチュアリー
自動車関係の物流は日系大手フォワーダーの特権だったように思える。僕たちみたいなマイナーなローカルフォワーダーは簡単には入っていけない聖域(サンクチュアリー)だ。
自動車関連だけで十分な物量があるので、コロナの影響で自動車の仕事に偏っていた日系フォワーダーも併せて打撃をくらっており大手の同業者からは悲鳴が聞こえている。
取り扱い業種を分散し、リスクも分散
最初からそんな聖域に入っていけない僕は、タイに来てからずっと飛び込み営業を繰り返し、日系の中小企業様の物流案件を対応させてもらっていた。
電話帳のリストを片っ端から開拓していったのでお客様の業種はおかげさまで偏っていない。
自動車関係の仕事も一部あったがメインではなかった。コロナの影響で食品関連は伸びていたので一部が減って、一部が増えるという状態に現在なっている。
もう借金生活はしたくない
一度 起業に失敗をして借金をしていた僕にとっては、再度の事業失敗は恐怖でしかない。もう生活費を稼ぐためのアルバイトはしたくない。
バイトはやろうと思えば出来る。ワインコネクションでバイトしようかな。
日本にいた時はサイゼリアが好きだった(バイトしてたし)。タイではワインコネクションが好きだ。バイトしても良いと思うくらい好きだ。理想はワイコネさんの物流(ワインの輸入とか)やるの面白いだろうなぁ。本部に営業しにいってワイコネ愛を語ってこようかな🍷 pic.twitter.com/BDpGOob1HF
— イーノさん@タイで物流の社長🇹🇭 (@iino_saan) July 20, 2020
皮肉なことにフォワーダーという仕事が好きではなかったのに、この仕事を必死にしていたおかげで救われた。
自社でやっていた商社業はというとずっと赤字だったし、商社だけで起業をしていたらまた借金生活だったと思う。
フォワーダーやってて本当によかった。
目標を振り返ってみて気づいたこと
毎年自分の価値観を見直し、3ヶ月毎にも時間をとって「何がしたいのか?」「何を大切にしているのか?」を振り返っている。
目標設定の方法はこちらの記事を参照して欲しい。
今年もあと数日で終わり。この時期にふとこの1年を振り返ってみていかがだったでしょうか?普段から日常的に振り返りをしている場合は明確にどの出来事に対してどのように感じ、どのように軌道修正をしたかなど分かると思います。 しかし、日々の忙しさに忙殺され定期的に振り返りをしていない場合であれば、「今年も忙しかったな。。」とか、「◯◯のプロジェクトがうまくいったな」とか。全体的にぼんやりした感覚や特定の出来事しか覚えていないのではないでしょうか。これ非常にヤバイ状態です。
まさか年始にコロナによるパンデミックが発生するなんて思ってもいなかったので6月末で半年を振り返った時に色々とハッキリ見えてきたものがあった。
やっぱりイーノさんの意識は高いww
仕事で遊んでいる
僕は仕事を楽しんでいる。最近の記事にも書いたが僕がYouTuberになった理由は もちろん生き残りをかけた為の行動だけれども、新しいことへの挑戦を楽しんでいる。
商社業ではベルギーの飼料を扱っていたが、これも「ベルギーでビールが飲みたい」というよこしまで不真面目な欲望があり実際にベルギーまで行ってビールを飲みまくってきた。
またベルギーに出張に行く為に色んな事をしたし、残念ながら結果は出ていなかったけどちょっとした前進でも一喜一憂していた。
やはり挑戦をしてそのプロセスを楽しんでいるところがある。
こう考えると業種は何だっていいというのが見えてきた。現在はフォワーダーだけど他のライバルがやっていないようなことをワクワクしてやっているし。
大規模なことを目指していない
ここが結構大きな気づきだったんだけど、別に僕は何かで世界一になりたいとか思っていない。また世界中に拠点を出すとか、1兆円を稼ぐ!とかなんても思っていない。
お金は自分と周りの人が十分に暮らしていけるくらいあれば満足だし、僕の基本給は少ないが会社の業績が悪くなければ株主配当でそこそのの金額がもらえる仕組みになっている。
上述しているが僕自身が仕事を楽しめればOKだから規模が大きくある必要はない。
規模が大きくなると管理も大変だし、今回のコロナのような問題が起きたときのリスクも上がる。だから〇〇円を稼ぎたい!という金額だけの目標は大切なことが見えていないような気がする。
お客さんに感謝される
主に中小企業のお客さんの物流サポートをしているが、お客さんが物流で分からないことがあれば僕に気軽に連絡をしてくれる。
僕としても9年のフォワーダー経験があるので国際物流の知識はたまっているから、アドバイスをする事が出来て更にお客さんにも感謝もしてもらえる。
積み重ねてきた経験を使って、実際に人に貢献をすることが出来ているのだから最高ではないか。
得意な事・勝ちやすい領域で勝負できる
これもかなり大きい事だと気がついた。
9年もの物流経験があると流石に色んな貨物を運んできたという自負がある。特にタイという地域であれば、現在 物流業者として7年の経験があり そこら辺の駐在員よりも確実にタイでの物流の知識は多くなっていると思う。
僕には日本への帰任がないので「タイ 物流」というマーケットにおいては個人レベルでは物流に詳しい存在になれていると思う。
さらに言えば物流をしている人は保守的な人が多いという印象がある。物流のユーチューバーだなんてふざけたことをやっている日本人は少なくともタイで会ったことがない。
更に言えば僕は物流のインスタグラマーでもあるし、ツイッタラーでもあるww
何でも簡単に海外に
物が送れると思わない方がいい。・食品
・食器
・マスク
・化粧品
・バイクなど
個人使用でなく販売目的だと
通関でかなり手間と費用がかかる。グローバルが一般となり
個人でも活躍できる
これからの時代は貿易の知識はあっても損しないよ。
— イーノさん@タイで物流の社長🇹🇭 (@iino_saan) June 26, 2020
ここまでSNSを駆使している物流マンはタイに日系の物流業者が多しと言えど僕だけだろう。
SNSを使っているからと言って顧客獲得で無双しているかというとそうではないが、僕や弊社のことを知ってくれている会社はあるので認知という意味で効果を発揮していると思う。
飯野さんは物流マンじゃないですよね
これはたまにお客さんに言われる一言だ。僕も物流マンとして活動しているというより、商人として商いを楽しんでいる。
物流は手段の一つで僕がお客さんに提供しているのは物流手段や物流の知識だけでなく、お客さんのビジネスに貢献すべく、紹介できる人は積極的に紹介したり、マーケティングのアイデアをお伝えする時もある。
お客さんを選ぶことが出来る
そして大規模なことを目指していないので、大きいお客さんを必要としていない。だから嫌なお客とは取引をする必要がない。
また僕のSNSの活動とかを知っていて応援してくれるお客さんと取引をすれば気持ちよく商売が続けられる。
現在でも失礼だなと思ったお客からの依頼は断わったり、高い見積もりを出すようにしている。こういうことが出来るのも基盤と強みがあり、無理をする必要がないからだ。
何の為に働くか?
28歳で初めて起業してからずっと働き続けてきた。仕事は好きだけれども仕事だけが人生ではないとタイで生活して思うようになった。では自分が何の為に仕事をしているかというとやってて楽しい、幸せになる為である。これは振り返ってみて改めて強く思ったことでもある。
経験もあり、強みも出来上がったフォワーダーという業種であれば、楽しく新しいことに挑戦したり 業績が超悪化して胃がキリキリするなんて可能性も低いだろうと思っている。
目的と手段を再認識した
仕事に関しては明確にこんなことがしたい!というのは現時点ではない。
一時期はツイッターで1万人のフォロワーが欲しいと思ってたけど、万垢になって何がしたいの?メリットもあるけどリスクもあることを考えて今は全くフォロワー数に拘っていない。
最近、明らかにツイート数が減ってますもんね。
無駄に多いフォロワー数より、少しのフォロワーさんたちでも良いから心から応援されていたい。
このコロナ禍の経験を経て色々考えさせられた。自分には得意なことがあり、その知識を使ってお客さんに貢献し感謝されるというのは 喜ぶべきことではないかと強く思うようになった。
フォワーダーという仕事が大好きだとは思わない。しかし、この仕事を通じてお客さんとの出会いや会話を楽しんだり、トラブルもあるんだけれども乗り越える。
そして新しいことに挑戦をして仕事で遊び続けたいと強く思う。
まとめ
価値観は人との出会いや経験で変わっていく。
現在フォワーダーに対しての価値観、仕事に対する価値観はコロナの影響でかなり変わってきた。今回、時間をしっかりと取って振り返ってみて 現在の価値観を明確にして本当に良かったと思う。
もし君が現在の仕事が好きになれないという場合、いきなり辞めるのではなく少し立ち止まって考えてみよう。
何が嫌なのか?何をしたいのか?それは仕事を変えると実現できることなのか?やりたい仕事はコロナやその他の自然災害などのリスクはないか。
君のやりたいことが明確になり、今の仕事・これからの仕事が目的ではなく手段だということを認識できればきっと楽しく働けると思う。そんな気づきが僕にはありました。